2012年02月15日

漆。伝統工芸と化学その1。

大分久々の更新です。

先日、東急ライフの「信州木工会 冬のクラフト・家具展・2012」に行ってきました。
木工細工や家具作りの職人さんたちが腕を振るって作成した、心のこもった小物や家具が多く並び、非常に興味津々で見ておりました。

その中で、私の目を引いたのがこちら。漆塗りのプレートです。
漆。伝統工芸と化学その1。
赤漆の赤と漆の黒が重なって、非常に独特で深みのあるいい色を出していました。
朝日村の「彩漆KOBAYASHI」さんの作品です。一目惚れして購入しました。
色々お話もさせて頂き、このような一品ものの手作りの工芸品は、量産品には無い暖かさ、というか、心のこもった、というか、
理屈では語れない良さ、と言うものがあります。
勿論、量産品にも量産品の良さはあります。安く、手軽に手に入り、使い捨てもできる。
しかし、海外製の安い量産品が溢れかえっている今だからこそ、
こういった、手工業によるものづくりを良さを見つめ直す必要があるのかもしれません。

さて、長くなりましたが、今回はこの「漆」の話です。
漆で有名な所と言ったら、まず思い浮かぶのは「輪島」でしょう。実は先週行ってきました。
輪島の道の駅には、輪島塗のプレートを何枚も並べた絵があり、非常に素敵です。
で、輪島塗ですが、「この職人技術がスゴイ」というのが、刷毛で塗っているのに刷毛の跡が無いのです。

先日、テレビで漆塗りの技能の伝承の話をしているのを観ました。
とある工芸大学では、この技術の伝承をサポートするために、
職人さんの腕の角度、刷毛の角度、刷毛の力加減、刷毛につける漆の量、刷毛のスピードなど、
様々な点から解析し、それを元にお弟子さんたちに身につけさせる、と言うものです。
そう言ったものが分かっても、ロボットにはできない。人の手で無いとできない。それが職人の技、というものです。
要は理屈ではないんです。感覚なのです。感覚で「あ、成功した」「あ、ダメだ」って思った事、あるでしょう。あれなんです。

さて、ここまで職人について話しましたが、ここからが本題。漆についてです。
漆。伝統工芸と化学その1。漆は「ウルシノキ」と呼ばれる木の樹液が原材料となっており、約80%を占める主成分が「ウルシオール」と言うものです。
このウルシオールという物質、日本で発見され、真島利行博士により構造解析されたものです
「化学」という分野が日本に入ってきて、わずか100年程度の事です。
ちなみに、漆でかぶれる人が良くいますが、それはこのウルシオールが原因物質となるアレルギー症状です。
ちなみにこのウルシオール、マンゴーや銀杏にも含まれます。

ウルシオールは、ラッカーゼという酵素によって高湿度下で酸化反応をし、
「重合」、要するに近くにあるウルシオール分子と規則正しい配列で合体していきます
しかし、この重合反応がゆっくり進むため、乾いてから重ね塗りして・・・という工程が続きます。
非常に難しい、根気のいる作業です。これを上手くやるのが職人さんたちの技術ってことなんですね。
また、漆は紫外線に非常に弱い性質を持っています。紫外線が重合した漆を攻撃し、劣化させてしまいます。

ちなみにこの重合反応、身近なものでもあります。接着剤です。
接着剤は空気に触れたり、溶剤が揮発したりすると、重合反応が始まり、固まります
モノによっては空気中の水分も関係していたかと思います。パテや塗料も同様です。
上記の紫外線の件は、重合したもの、要するにプラスチックや接着剤でも同様で、重合反応した分子を攻撃します。
外に置いてもろくなってヒビ割れたバケツなんていい例です。

現在、明治大学理工学部のある研究室では、速乾性の漆を作ったりと、漆の研究が行われています。(「化学と工業」2010年12月号より参考)
今、日本の伝統工芸の後継者が徐々に減少していく中で、科学技術と融合する事によって、
その伝統工芸が守られ、新しい価値が産まれようとしています

私感ですが、これまで量産や利便性のために使われてきた科学技術、
そしてその影響により、時代の流れによって徐々に衰退していく伝統工芸、
この2つが融合して、伝統工芸が守られ、発展しようとしている。
非常に素晴らしい事ではないかと思うと同時に、私もそんな仕事をしてみたいな、と感じます。


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Posted by su96 at 00:01│Comments(0)化学
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