化学に魅せられて 白川英樹

su96

2011年12月19日 03:00

今日読み終わった本です。2000年にノーベル化学賞を受賞した筑波大学名誉教授の白川英樹博士が、2001年に出した著書です。
彼は導電性高分子ポリアセチレンを発見し、分析し、発展させた事で受賞した研究者です。

高分子とはなんぞや?簡単に言うと、プラスチックやゴム、タンパク質やデンプン、紙などを指します。
ポリアセチレンはプラスチックです。要するに導電性プラスチックって何?って事ですが、
その名の通り、電気を通すプラスチックの事を言います。
彼は、それを発見し、そして発展させていったのです。
「プラスチックは電気を通す?通さない?」と聞かれると、殆どの人が「通さない」と答えると思います。
そんな常識を覆す様な物質を「材料」という形にし、研究をしていった人なのです。

ご存知の通り、金属は電気を通します。
金属は、自由電子と言うものが存在し、電圧をかけると一方向に電子が動くようになる、という原理からです。
一方、プラスチックをはじめとする高分子材料は、この自由電子と言うものが存在しません
そして、その化学的構造から電気を通さないものが殆どです。
しかし例外として、ごく少数ですが、電気を通すプラスチックがあるのです。
その代表が、白川英樹教授の研究してきた「ポリアセチレン」なのです。
更に、臭素やヨウ素をドーピングすると、更に1000万倍も電気伝導が向上する、というのです。

化学的に説明すると(大学レベルの化学の話なので読み飛ばしてもらって構いません)
ポリアセチレンの化学構造は、分子モデルで書くと、単結合-二重結合-単結合-二重結合-・・・という形で主鎖を持ちます。
単結合はsp3でσ結合、二重結合はsp2でπ結合です。
このポリアセチレンの主鎖においては共役二重結合がずーっと連なって行きます
ポリアセチレン全体としては「1.5重結合」という形になります。
共役二重結合によってπ電子の重なりがずーっと連なって行くと、ある程度電子が動けるようになってきます。
二重結合はハロゲン元素と反応しやすく、電子の受け渡しが行われると、ポリアセチレンはカルボカチオン(陽イオン)になり、
その+になったところに電子が移動し、それによってまた+になったところにまた電子が移動し、と、
電子が動くようになり、更に電気伝導性が増す
、という事です。

本の内容としては、大学レベルの化学の内容が出てくるので、恐らく化学に知識がないと、ポリアセチレンの説明部分は読みにくいかもしれません。
反対に、大学で化学を勉強してきた人には非常に楽しく読める内容かと思います。

その他、インタビュー形式で、
白川英樹教授は幼少時代について書かれており、典型的な理系少年であったと言う内容であったり、
アメリカの大学から招待され、渡米して研究した時に感じた、日本とアメリカの研究環境の違い、
例えば、日本は基礎研究に関して予算が非常に少なく、特に官庁や国公立にその傾向が強い事や、
アメリカの教授は研究内容が実用レベルに近づいてきたらベンチャー企業を作るのに対し、日本、特に国公立の教授はそれができない事、
などが書かれています。

白川教授の少年時代の話には非常に共感出来る事が多く、私も化学を専攻しようと思った時の気持ちが思い出さされる気がしました。
アニメやマンガで出てくる「実験⇒混ぜ合わせる⇒爆発」あれにあこがれを少年時代に抱いていたのがきっかけでした。

そんな訳で、私としてはこの本は非常に楽しく読める内容でありました。
これは私の一意見なのですが、「ノーベル賞」と言うと「スゴイ!」と単純にイメージされるでしょうが、
スゴイのは「ノーベル賞」ではなく、そのノーベル賞を取った研究です。

白川教授はノーベル賞の話を一番最初に聞いたのが報道関係だったそうで、それまでノーベル賞の話は全く出た事もなく、
報道機関から話を聞いても「んなバカな。大分前の研究の事で箸にも棒にもひっかからんだろ」程度に思っていたそうです。
で、その8日後に正式に通達されたそうです。

ノーベル賞は確かに、発見と社会的貢献に優れた研究について受賞されますが、一方で、私は所詮「一つの価値の判断基準」程度しか考えておらず、
ノーベル賞を批判する気は全くないのですが、その価値を理解出来ないのが正直なところであります。
社会的立場に取り憑かれてノーベル賞を目指す研究者は居ても、
ノーベル賞を取った研究者にノーベル賞を目指した人って多分殆ど居ないんじゃないかな、
って思っています。
ノーベル賞を受賞した研究者って本当に、真に心の底から科学が大好きで、
探究心、好奇心あふれる人たちばかりですから。
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